わたしは中古の家庭用ミシンを2代所有している。
60年代の電動ミシンと70年代の電子ミシンだ。
最近修理が終わったのは、70年代の電子ミシンの方で、うまく縫えなかった原因は、天びんにはさまっていたホコリやくずのせいだった。
天びんにつまっていた、ほんの数ミリのホコリのせいで、布がまったく縫えなくなるのが、ミシンの恐ろしいところである。そしてこの天びんが上糸の調整に、以外に大きな役割を果たしていることがわかった。
今回は、ミシンの《天びん》という部分について、そのおもしろいメカニズムについて書いてみようと思う。
まず、そもそも、天びんといわれても、どこかわからないという場合は、この下の赤く囲ってあるところを見て、ああ、と思っていただきたい。
糸調子の真横にあって、ミシンを動かすと針が上下するのと連動して、上下している、あの部分。
この天びんの役割をいつも不思議に思っていた。必要だからついている部品であるには間違いないのだが、動きを見ていると、ただ、糸を持ち上げては下げてを繰り返しているだけだから。
しかし、その役割は、あるとないとで歴然としている。天びんに糸を通さずにミシンを動かすと、上糸がゆるんで、とんでもない縫い目になる。
今回、修理の過程で、この天びんに問題があることが発覚したときは、少し拍子抜けしてしまった。天びんってただ糸を上下にゆるゆる動かしているだけなのに。
その後、この不思議な天びんについて調べたら、この上下にゆるゆる動く動作が、天びんの糸ゆるめ量として、かなり微妙なゆるめ具合を調整してくれていることがわかった。
まず、正常に天びんが作動しているときの天びんの動きを波線で見てみよう。
天びんの動作をアップ、ダウンの動作で見てみると、このように緩やかに糸を上下させていることがわかる。
このアップダウンは下糸の釜と連動していて、天びんが最上点に達する時、天びんが最下点に達する時でそれぞれ、釜の位置、も違ってくる。
さらに重要なのは、釜には剣先という小さな刃物がついていて、針が釜に刺さるとき、この剣先が、適切な位置にいなければならない。
しかし、今回は針、剣先、天びんの三大要素のうち、天びんにフォーカスしてはなしを進めていくことにする。
上の資料の3ページ目、天秤・釜糸両曲線では、剣先が針と出会い、上下の糸が絡み合い、針が最上点まで上がる一連の流れの中で、天びん=上糸が、上下運動の中で、どの位置にいるかをみることができる。
天びんはただ単にアップダウンしているのではなく、釜と針の位置にあわせて、高さが決まっているということがわかる。
わたしが今回修理したミシンは、この決まった天びんの高さ=上糸の高さにくるいがあった。
天びんがアップダウンするということは、そこにかかっている糸も一緒にアップダウンするわけだが、天びんにはさまっていたホコリのせいで、一緒にアップダウンするはずの糸が、正常な上下運動を起こしていなかった。
波線で表すと、ホコリがたまっていた天びんにかかった糸の上下運動は、次のような感じになる。
今回の修理では、ミシンを分解しても、どこに問題があるのかが、ずっとわからなかった。上糸が緩んだ縫い目ができてしまうのは、糸調子に問題があるからだ、という記事をたくさん読んでいたため、勝手に、糸調子機能が悪いんだ!という断定をしていた。
でも、ふと天びんにかかっている上糸の上下運動をみたとき、なんだか上下運動の激しさがいつもより、弱いなあ…という印象があり、だったら、天びんを詳しくみてみるか、という半ば手休め感覚で天びんを分解したのだ。
そこから、この天びんのホコリ詰まりに至った。
ミシンの修理は、なかなか奥深い。