永遠のフランス語中級話者にとって、フランス映画をおもしろく見ているときほど、フランス語を勉強していてよかった、と思うことはない。
映画が、フランス語でわかる、ということは、生きているフランス語がわかる、ということだからだ。
外国語で見る映画の時間は、日々の積み重ねのことばの勉強が、少なからず、無駄ではなかったということを、実感する時間だ。
作品がおもしろければ、おもしろいほど、必死で、言葉を追いかけたくなる。
つまらなければ、つまらないほど、言葉は脳をかすりもせずに、逃げて行く。
中級者にとって、見る映画を選ぶのは、なかなか大変だ。
難しすぎても、簡単すぎても、ダメなのだ。
そして、むずかしさと簡単さのバランスの中に、ユーモアや笑いがあったらなお、いい。外国語で笑えた時ほど、世界がひろがることといったらないかもしれない。
Le sens de la fête
「会話のスピード」が、ジェットコースター。
学習面でいい素材になりえるのは、スピードに特化して見ることができるところ。
演出と音楽がそのスピードをさらに盛り上げてくれる。
ある結婚式のどたばた劇を、裏方の目線を中心に描いているコメディドラマ。
込み入った内容を理解することに注意を置かなくても、するするとシーンが展開していく。
キャッチボールのフランス語会話を、約2時間ノンストップで吸収するには、うってつけ。
困った反応の仕方、キレ方、落ち込み方、そして、喜び方、喜怒哀楽を交えた生きたフランス語が、これでもかという程、炸裂している。
主演のバクリさんは、フランスの国民的俳優だったひと。この方が出演している近代フランス映画の中でもひときわ名前が上がるのが「家族の気分(原題)Un air de famille」。舞台出身の実力派俳優だけあって、こちらでも家族の生々しい会話が炸裂している。
Bref
30代の冴えない男が繰り広げる日常の中にこそ、すぐに使えるボキャブラリーが溢れている。
約2分の短いクリップの中に詰まっている要素は、いろいろあるけれど、注目したいのは、やはり、現代に生きる若者のことば。
スラングが苦手でも、このシリーズでは、おもしろいくらいにシンプルにスラングが使われているので、敬遠するまでもない。
些細な会話の中に、微妙なニュアンスを読み取ったりするためのフランス語中級学習素材にもなるし、ただストーリーだけを楽しんで笑いたいときにも、もちろん最適。
基本的にはエピソードごとにはなしが完結するので、何話からもはじめられるけれど、1話からはじめた方が、その後の展開がぐっとおもしろくみれる。
GRAVE
今年のパルムドールがショッキングでグロテスクだというはなしをきいてから、受賞作であるTitaneと合わせてみた監督の過去の作品。
賛否両論の受賞作よりも、個人的にはこちらの方が深みがあってよかった。
フランス語の学習にはそぐわないかもしれないけれど、あえて保存版にのせておきたかったわけは、単純に、こうゆうフランス映画って、正直見たことがなかった、という、新ジャンルに踏み込める作品だから。
人によってはとてつもなくショッキングな場面が含まれているので、おすすめというわけにはいかないけれど、フランス映画史の新しい才能を垣間見る上では、とても重要な作品だと思った。